ライディングフォームや体重移動より操作が重要
例えばMotoGPを見て「とんでもなく体を入れてる」とか「このライダーは他の人よりもっと過激に体を動かしてる」など、速い人のライディングフォームや体の動かし方はカッコよく感じるものです。しかしスポーツ走行においては、フォームよりまず操作を上手くしていくことが先です。
ライディングフォームはあまり気にしないようにしよう
速い人が全て正しい、多少語弊はありますが誰もが納得する点です。そして速い人のライディングフォームは美しくカッコいいものです。アクセルの開け方やブレーキの掛け方はカメラでも付いてなければ見ることはできませんが、フォームは見ればわかるし、多少は真似できる気がします。
だからタイムがまだ全然出てなかったり、操作が全然できてないのにカッコいいライディングフォームに憧れて思いっきりケツをずらして膝を擦る、自分も含めほとんどのライダーが経験していることだと思います。
ですがここで勘違いすると問題になることがあります。アクセル・ブレーキ操作の練習を差し置いて体を上手く動かすことばかり練習してしまうと、妙な癖がついて安全に速く走ることができなくなってしまいます。
異論はあるでしょうが、スポーツ走行に関してはアクセル・ブレーキ操作がメインであり、ライディングフォームや体重移動はそれに味付けする程度だと私は考えます。
もちろん全てが組み合わさって効率的なコーナリングに繋がるのは間違いありません。操作が完璧でも体の動かし方が変だったらもちろん上手く走れないでしょう。
しかし我々素人が、サーキットでタイムを縮めたいと考えるとき、もっとも重要なのはいかに上手に操作するかであり、それに合わせて無理なく体を動かすという考え方が重要だと考えます。
なぜ体の動かし方がメインでないのかを考えてみる
サーキットで1ラップ30秒くらいなら2秒、1ラップ60秒くらいなら4秒遅い人が自分の前を走っているとしたら、前の人がどんなに必死に体を入れて頑張って曲がっているとしても、リーンウィズやリーンアウトでさえ楽についていくことができるでしょう。
それはなぜか。ライン取り、ターンインでのブレーキ開始のタイミング、掛ける量、フォークのストローク量、キレイに寝かせて曲げることでの前後サスの縮み方、アクセルの開け方とリアサスの縮め方などの部分が相対的に上手いので、ライディングフォームなんてどんなでも追いついてしまうんです。
ではベストラップを狙うようなライディングフォームで、前の遅い人についていったら? 恐らく物凄く走りづらいし、かえって体を痛めたりします。タイミングや車速を外したライディングフォームになるからです。
一応、アクセルやブレーキ操作をあまりせずに、スッと体重移動を上手くして前のバイクについていくこともできなくはないです。しかしそれってかなり難しいし、荷重がかかってないので転倒のリスクも高まります。ライディングフォームを中心にして走るというのは成り立たないのです。
それとは別に、例えばまだ慣れてない人がいつも同じコーナーを弱いブレーキで同じようにターンインしていくとして、その弱いブレーキに合わせて体の動かし方を色々変えて速く曲がれる方法を探そうとしているとします。
でもそれってライディングの本質から外れています。そもそもブレーキはできるだけ強く掛けたいもので(もちろんブレーキを強くできないコーナーもある)、ブレーキが弱いのに他のことをしても回り道をしているだけです。
実はこのブレーキが弱いというのは他ならぬ私なのですが、最近ハードブレーキを心掛けることによってコーナリングがとてもやりやすくなったのです。
ハードブレーキはライディングの基本ですが、それより体の動かし方を上手くすることでブレーキを補う、というような考え方は、あくまでブレーキをマスターしてからより高い次元を目指す時にするものであって、とにかくスポーツ走行においてはブレーキングが一番大事なんです。
ブレーキングは奥深く、あえて簡潔に言えばタイムラグなくハードブレーキして、大きくフォークをストロークさせて、リリースしながらバイクを寝かせて、フォークが伸びない内に曲げることで遠心力を発生させて、その遠心力がフォークを抑えてブレーキをリリースしても伸びなくさせ、またリアサスも縮めていくことでより曲がって遠心力が強まってまたリアサスが縮んでより曲がって…。
ブレーキングはライディングの中で一番難しく、一番重要な技術です。恐らくサーキットのタイムの7割はブレーキングで決まっているのではないかと思います。
ではライディングフォームや体重移動は重要ではないのか
個人的にはとにかくブレーキングに集中すべきだと思っています。そのブレーキングを邪魔しない、上手くできる体重移動ができれば、まずは十分なはずです。
加速ではタンクにくっつくような前傾をしています。
もしこの状態からいきなりブレーキを握れば、荷重を含めたマシンの質量に加え、ライダーの重さまで全てがフロントフォークとフロントタイヤに掛かり、ハードブレーキするにはかなり厳しいことになります。
しかしここでブレーキを握った瞬間に上体を引くことで、フォークが沈んで実際にブレーキが強く効き始める時にライダーの重さをいくらか消すことができ、マンマシンの質量が減るために唐突に強い減速Gを掛けることがやりやすくなるのです。
「常にマシンに先行して体重移動する」という名言が和歌山利宏さんの本にあったのですが、このブレーキングは最もわかりやすい例です。
フル加速中に、いくら上体を動かそうがマシンに大きな影響はないです。そこでブレーキが効く直前に上体が先にブレーキすることで、一時的にブレーキの負荷を減らすということです。
わかりづらければ、小さい模型のバイクに四角い箱が乗っかって走ってると思ってください。ブレーキする直前にこの箱を指で押さえて箱の動きが停まると、一時的にバイクから箱の存在が消えることになります。だからブレーキもバイク分の重さだけでできるわけです。
実際にはライダーは人間で全身に柔軟な筋肉や関節があるので、よりしなやかに荷重を吸収、放出できることになります。だから操作に加えて、ライダーがどう動くかでコーナリングの上手さが決まるのです。
繰り返すが、体重移動はメインではない
しつこいですが、ブレーキングの体重移動に関して一例を挙げたものの、ライディングの本質がここではないことはわかると思います。
より短い距離で止まり、車体は安定したままで、そのまま寝かし込めるブレーキング。その操作のほうがよほど重要なのです。あくまで体重移動はそれに追従するもの。ブレーキの仕方が変われば体の動かし方も変わります。
これはサーキットでなくてもいいのですが、慣れてない内はリーンウィズとニーグリップで強烈なブレーキングからの寝かし込みを練習するといいと思います。フォークが沈み、フロントタイヤが押し付けられている時のフロントの安心感を活かすライディングが必要になるからです。