ZX-12R(後期型) 試乗インプレ
弟がついにあの12Rを買ったので早速山道を走ってみました。速いが乗りづらくヤバイバイクと聞いていたのですが、乗った印象は意外なものでした。
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ライダースペック
体重: 55kg
座高: 普通の日本人より高く胴長短足
ZX-12Rの生い立ちと一般的評価
このバイクについてはインプレの前に、その存在について書かないといけない。
ZZR1100は全世界から「カワサキのバイクはでっかく速く、そして曲がり速い!」という評価を受け、世界最高速記録も樹立した、二輪史的にも重要なバイクだった。メガスポーツの始祖であり、他社との争いの中にあっても「カワサキ=世界最速」というイメージが常にあるのもZZR1100の影響だと思われる。
ZZR1100は世界最速でありながらツアラー的要素も兼ね備えており、多くの人に受け入れられた。この相反する要素を上手く併せ持ったのがZZR1100であり、後のZZR1400/ZX-14Rなのである。
ではZX-12RとZZR1200は一体どうしたというのであろうか。
ZZR1100の後にCBR1100XXとあのハヤブサが台頭し、世界最速の座はカワサキの手を一旦離れた。だが言うまでもなく指を加えて見ているようなカワサキではない。強いカワサキというブランドのためには世界最速は不可欠だった。
ハヤブサがよほど強かったからなのか定かではないが、ここでカワサキは最速のコンセプトを先鋭化したZX-12Rとグランドツアラーの色合いを強めたZZR1200に二分する。
これは結果的に失敗に終わる。1200ccのSSとして、超高速域での絶対的動力性能を追求したZX-12Rは多くのライダーを困惑させ、カワサキ車は気難しいという負の印象を与える結果となった。一方ZZR1200は妥協や半端な存在として映り魅力に欠けた。
現代から見ればZX-12Rや2000年代のZX-10Rがあったからこそ硬派なカワサキのイメージが形成されて少なからず恩恵はあったと思われる。しかしセールス的には失敗に終わっており、そのカワサキの気難しいイメージを払拭するためにはZ1000やZ750、ZZR1400の登場を待たねばならなかった。
なぜZX-12RとZZR1200は失敗したのか。それは二分してしまったからだと私は思う。
「最速のバイクに乗る」ということが夢を与えるのであり、「最速のバイクなのに上手く乗れている」という瞬間に喜びを感じるのがライダーである。しかしZX-12Rは先鋭化しすぎた結果として、前期型は乗りづらく評価されなかった。またZZR1200は世界最速ではなかったし、かといってBMWのようにハイスピードツアラーとしての歴史も持たないから魅力に欠けた。
だから明らかにその失敗から学んでいるのがZZR1400。超強力なエンジンに速さ・勇ましさに加えてボリュームも併せ持ったフォルム、しかも車体は意外にしなやかで操る喜びを感じさせてくれる、ZZR1400/ZX-14Rは間違いなく名車である。
しかしこの頃のカワサキは変革期であり、F型までのZX-10Rもそうだが乗りやすいビッグバイクを作る技術がなかったように見受けられる。その最たるがZXー10RのC型とこのZXー12Rである。
…と、非常に前置きが長くなってしまったが、このZX-12Rはカワサキの溢れんばかりの情熱と重い運命を背負わされた悲劇のマシンなのである。(若干誇張あり)
車体の程度や装備など
このマシンは走行距離が多めなもののある程度の整備は受けていて、若干エンジンパワーが落ちている感はあるもののライディングに不足は感じられなかった。改造点はバックステップとトリックスターのフルエキのみで、タイヤはダンロップ クオリファイヤー2。
まず重量はやはりそれなりにあり、押し歩きはビッグネイキッドよりわずかに楽という程度でやや緊張感は伴う。しかし意外にシート高は低く、短足の私でもまたがったままバックが普通にできるほど。ハンドル位置も意外に低くなく、街乗りでは拍子抜けするほどである。緊張感を持たず乗れ、Uターンもセパハンの中では楽な方でZX-14Rより楽だと思う。
走り出すと全体的な挙動として後輪の立ちがやや強めで、スクゥーと立ち上がり続ける後輪には常に安定感がある。小回りは苦手とするが、しかしタイヤの特性もあるのかシート一番前に座って上体を思いっきり前に倒すと安定した小回りができる。そのため普段は安定感を楽しみながら交差点などでは小回りできるので不安は少ない。
フルエキで燃調が合っていないのか、2500回転まではアクセルのツキが悪くトルクもかなり薄い。しかし2500回転からは一気に図太いトルクとなり中回転域まで力強く吹け上がる。一方、高回転域は伸びないことはないのだが中回転域の力強さのほうが印象的。車体が重いこともありSSのような軽やかな加速はしないが、回転上昇と共にパワーで突き進む感覚は痛快である。
エンジンはやや繊細さも感じるほどで、ギュィーーと吹け上がっていく。もちろんホンダのモーターのような精密さはないが、ノイズはやや少なめでZZR1100やGPZ1100よりも詰まった空気感のようなものが少なく、もう少し尖り気味。水冷エンジンの中でもかなり気持ち良いほうだと思う(フルエキによる演出もあるにせよ)。
走りに関する装備
その重量とパワーを考えるとブレーキ性能に少し不安を覚える。C型10Rと同様トキコキャリパーで、しかもパッドが交換間近の赤パッドということもあって、握り込んで止めるブレーキ。まずはメタリカやジクーのパッドを試してみたい。
ネット上を探してもストックのサスセッティングが不明だったのが残念なものの、恐らくいじっていないようで少しリアのプリロードを抜くだけで山道でも気持ち良く走れるセッティングとなった。前後サスとも動きに不満は全くなかった。
またポジションはバックステップのおかげかとても良いもので、これまで乗ったバイクの中でも最高クラスだと感じた。もちろんこれは体格の違いで個人差はあるものの、攻める時にハンドルが遠い・低いと感じる人はほとんどいないと思う。セパハンの中では楽な部類。
山道走行のインプレ
まず重要なのがリズムを理解することである。
リアが200のサイズなので寝かし込みにやや時間がかかり、さらに重心が前方高めの位置にあるので寝かし込みがゆったりしている。そしてシート高はやや低めなので人間の体重移動は小さいものとなる。私のように体重が足りない人は、尻をシートから浮かしてターンインしないと寝てくれない。
言うまでもなくフレームは超高速域に最適化されており、山道ではびくともしないと思っていい。なので動くのは前後サスとタイヤだけというイメージ。
前後サスの印象について、フロントは少し固めだが車重とパワーと超高速域を考えると順当なもので、プリロードは抜かなくていいと感じた。ターンインで強めにブレーキングして前を低くしないと当然曲がらず、ブレーキリリースをしながら寝かしていく特性。その時に前輪の突っ張り感や頼りなさや捻れなどは一切感じず、タイヤのグリップ力さえ問題なければブレーキは好きなように掛けられる。
絶対的安定の中でブレーキを一気にかけてリリースしていくことで速度と旋回力を調整する。俊敏なSSとは安定感が段違いのため、進入時のブレーキングのしやすさはとても好印象。この頼もしさなのにアンダーステアにならないのは素晴らしい。
リアに関してはアクセルで車体をかなり支配できる特性で、流石にタイヤサイズ的にも立ちはやや強いものの、寝かし込んだ後はかなりのコントロール性がある。
立ち上がり加速でわずかにアンダーを感じさせながらも、重い車体と大パワーを良く受け止めてリアサスが踏ん張り車体を前に押し出す。このフレーム剛性、びくともしない車体だからアンダーを感じるのは仕方がないと思うし、そのわりにリアサスの仕事のおかげで開けていける特性。その時の挙動とライン取りの読みやすさも相当なもの。
プリロードを少し緩めた影響なのか、切り返しで後輪がアウト側へ回り込んで自分から曲がる態勢に移行してくれる。イメージとしてフロントは体重移動とブレーキで荷重を掛けて、軽くなったリアはアクセルで回り込ませて旋回姿勢を作る。
だからきついUターンのようなコーナーは後輪が回り込む余地がないため突っ込み過ぎで曲がらないと思う。太いタイヤをいかに寝かすかが重要で、フレームも捻れないから曲がる力は「バンク角」と「フロントブレーキによる前輪の潰れ」と「アクセルによる後輪の潰れ」のみという印象。しかし剛性がしっかりしているのでそれに集中できて扱いやすさに繋がっている。
また体重移動は全力で前に持っていくマシン。タンクの後ろ側に沿って腰を左右に動かすと荷重が抜けにくく安定する。後ろには何もついていないと思って、一次旋回はとにかく前輪の存在だけで走る。それだけ前方に荷重を集中させても、立ち上がりでは普通にアクセルを開けていけるバランスがある。
ただしC型10Rもそうなのだが高荷重でないと曲がらずタイヤへの依存が大きいので、ハイグリップタイヤの装着は必須。クオリファイヤー2でも不安はほぼ感じなかったが、立ち上がりの時に路面のわずかなギャップで後輪がすぐ滑るので怖い。こういう高荷重設定のバイクは「タイヤへの荷重の掛け方」に集中したいので「グリップ力と相談」というのは極力避けたい。
全体的な感想
前期型でなく後期型なのが大きいだろうが、意外に普通のメガスポーツである。普通に乗れるバイクである。
街乗りではその重量感と安定感で大型車の醍醐味を味あわせてくれるし、高速での絶対的安定感・動力性能は市販されているバイクの中でもぶっちぎりのトップクラス。思いっきり前のめりになれば小回りも普通にできるし、止まればその車格から絵になる。そして一般からの評価「12Rはヤバイ」のおかげで優越感にさえ浸れるかもしれない。
正直私も12Rにそういった先入観を持っていたので、乗ったときには拍子抜けした。「普通のバイクです」というのが一番わかりやすい表現だと思う。ちょっと重いものの誰でも乗れるし、ある程度慣れているライダーなら普通にコーナーも楽しめる。
まあむしろ、あれだけ高速域でずっしりしてるのに山道も普通に走れてしまうのは一体どういうことなんだろうという疑問はある。存在としてはC型10Rに似ているものの、乗り比べると全然違う2台である。
12Rは絶対的剛性と自身の重さにより、挙動がかなり安定しているマシンである。ライダーの予測が容易であり、だから恐怖感も実は少ない。
C型10Rは高めの剛性を持ち高荷重設定ながらも軽量化を狙いすぎた結果、全体の挙動が非常に予測しづらく走りにくい。肉抜きしてはいけないところまで肉抜きして一体感がない(主にフロント周り)。よほどキレたライダーでないと楽しめない。
欠点もある
12Rにも欠点がないわけではない。というか普通にある。
まずは熱いこと。ZXー14Rほどではないが、ステップ周りへの熱風は耐えがたい。信号待ちが続くと悲劇だ。
そして一般車と共に走るのはやはり苦手。ポジションがきつくないので過激なセパハンのSSよりはまだマシだが、低速トルクが小さく車重もあるので交通量の多い道は辛い。しかしこれは慣れでどうにかなるレベルで、ツーリングにも使えると思う。
他の欠点は…飛ばさないと面白くないことくらいで、それはこういったバイクでは普通なので気にするところではない。この性能と扱いやすさを考えたらもっと評価されるべきバイクだと思う。