SUZUKI KATANA(新型カタナ) インプレッション(前半)
走行特性を中心にインプレしようと思っていたが、カタナというモデルはスズキの二輪史抜きに語れないため前置きを書き始めた結果、あまりに長くなったので記事を分けることにする。
後半ではより具体的なインプレを書いている。
インプレ時のコンディション
- 新車購入で走行500km時点。走行に影響する部分は全てストック状態。
- タイヤは純正のロードスポーツ2、指定空気圧。サス設定もストック。
- サーキット走行はしていない。
新型カタナを要約すると
2005年式のGSX-R1000のエンジン、つまりSSのエンジンを持つストリートファイター。SSより低中回転域を重視してあるために街中ではかなりの加速力を持つ。旧型カタナと違いバーハンドルだが、非常に扱いやすく運動性能にも寄与している。GSX-S1000(F)とは兄弟車だが、カタナはライダーに走る喜びを最大限に感じられるように明確に設計されている。
スズキがカタナをこういった形で出した、その背景を推測
スズキは昔からホンダ・ヤマハ・カワサキより価格を安くするか、カタログスペックで(わずかに)勝るバイクを市場に投入する。ホンダのような研究を重ねた結果の精密で高性能なバイクは作らず、ヤマハのような美しいバイクも作らず、カワサキのような重厚、そして現代では洗練されたブランドイメージもない。スズキは昔から実直で実を取る企業である。
2000年から見てみると、01年式のGSX-R1000が全SSの頂点となり、また隼は今もなお高性能バイクのブランドとなっているが、しかしそれ以外では強みを持たないと言っていい(外国ではSVやV-STROMは売れているが)。
新時代のネイキッドとなるはずだったGSRシリーズは外れ、GSRデザインの兄貴分となるはずだったB-KINGは外れ、グラディウスも失敗に終わる。SSでは2009年式のGSX-R1000以降、2017年式までマイナーチェンジでお茶を濁したため後塵を拝している。現行のGSX-R1000Rはコスパは随一ではあるが、他社にブランドで完全に劣るのは否めない。
やはりスズキは"GSX"のブランドだけが強み。そんな中で出したGSX-S1000やGSX-S1000FはリッターSSのエンジンを積み、圧倒的な動力性能があるにもかかわらず新車の実売価格が100万円を切る、にわかには信じがたいコスパを我々に見せつける。
GSX-S1000は決してスズキがコストダウンだけを考えて作ったマシンではない。"GSX"のブランドを使うからには失敗できない。高性能かつ圧倒的な価格のマシンをライダーに提供したいという、強い信念があって出しているはず。新車のCB400SFがいくらするのか考えれば、スズキがどんな偉業を成し遂げているのか瞬時に理解するはずだ。四輪でもスイフトスポーツが200万円を切る乗り出し価格であり、スズキがどれだけ買い手のことを考えているのか痛感させられる。
そして出したGSX-S1000の兄弟車である新型カタナである。恐らくスズキはGSX-S1000を作れたからこそ、新型カタナの開発も可能になったはずだ。もちろん部品共通化でのコストダウンもあるが、ストリートファイターを持たないスズキがいきなりカタナの名で市場に出すような判断はしないはず。GSX-S1000で成功したからこそ踏み切れたと思われる。
カタナの仕様は超思い切っている!
そんなカタナはスズキにしては珍しく思い切った設計となっている。いや、思い切っただけならB-KINGなど他にもあるが、カタナはそれとは違い名車と自信を持って言える高い完成度なのだ。
GSX-S1000と性能が同じなのに高い? それならそちらをどうぞ。乗ればわかるが、楽しいバイクというものを知り尽くしているスズキだからこそ作れたのがこのカタナ。
名機油冷エンジンの魅力溢れる乗り味でマニアックな油冷オーナーを多く輩出し、最大馬力しか見られないSSでも頑なに低中速域のトルクを重視、未だに隼は人気車種で中古車市場価格も高止まり。スズキのバイクは味わい深いモデルが本当に多い。
カタナの名である上でセパハンにしなければ確実に批判されるのに、あえてバーハンで出した。これは乗れば絶妙なポジションだとわかるのだが…。
またトルクカーブはわからないが、4000回転から急激に立ち上がるトルク。これにスロットルパイプが楕円でないことが合わさり官能的で超エキサイティングな加速が病み付きになる。
高めのハンドルに低いステップバー、足つきの悪い幅広のシートでライダーのことを考えていないのかと思いきや、大柄なポジションはライディングにゆとりと開放感を与え、幅広のシートはコーナリングでシート内側荷重を掛けやすく乗り心地も良い。またシートの滑りが良く左右への体重移動が自在。
かと言ってスポーツ一直線では決してなく、国内メーカーで一番気持ちいいエンジンを作るスズキらしくゆっくり走ってもゴリゴリ感が楽しめる。昔の油冷エンジンほどの良さはないが、パワーのある水冷エンジンでこのフィーリングは超合格と言えるだろう(イナズマ400は最高傑作だった)。
またホイールベースが1460mmと国内ストリートファイターで一番長く、程よく高めの重心と高いハンドル、そして低いステップから、今や絶滅危惧種のビッグネイキッドの重量感溢れる走りの片鱗を味わえる。前後のサスの突っ張り感があり、これが前後輪を路面に突き刺しタイヤが路面に張り付いているような安定感がある。曲がる時はこの長い前後軸を横に捻じ曲げるようなイメージだ。剛性バランスが的確だと感じる。
かと言ってビッグネイキッドのような加速がワンテンポ遅れる感じや、加速で前輪が浮きそうで不安定になる感じは皆無。トルクフルながら吹け上がりが異様に軽いエンジンと、絶大な接地感を保ち続ける前後輪のおかげで、やんちゃな加速がこの上なく楽しいのだ。
バイクなんて吹け上がりが良くて当然? 回せばどんなバイクだって楽しい? そんな人にこそぜひ新型カタナを試乗してみてほしい。3速まで普通にシフトアップし、アクセルをワイドオープンして4000回転を超える時、驚愕のトルクの立ち上がりに歓喜するはずだ。SSのエンジンも低中速域に振ればここまで楽しくなるのかと驚いた。
カタナはスズキが本気で出した名車
間違いなく言えるのは、スズキはこのカタナこそ本気で作っているということだ。全ての仕事を完璧にこなしたと言える。
多くのライダーが最初に見るカタログスペックは十分。価格だって他社のストリートファイターと変わらないか、むしろ安い。
デザインが変? あなたは実車を見たことがありますか? 写真で判断しちゃダメ。スズキのバイクは昔から写真映りが最悪。SV1000Sなんかは逆に写真映りのほうが良かった稀有な例。
生で見てもかっこ悪い? ひょっとしてアナタは昭和のカタナの亡霊に取り憑かれているのでは? アッパーカウルからタンクへ流れるライン、同じくサイドカウルへ流れるラインをよく見て。カタナ独特のボディラインが浮き出てくるはず。胴体部はマッスル、前後輪を繋ぐ下半分はロングでインパクト抜群。ショートテールが凝縮感を出してる。おまけに尻が高く後輪がよく見える。ほ〜ら、だんだんカッコよく見えてきた。
そしてカタナという名前を使ったこと。スズキとしては絶対に失敗できない車名だ。
もしこのバイクがGSX-S1000RやGSX-F1000、GSF1000のような名前だったら見向きもされなかったと思う。GSX-S1000と同じ性能で価格が高い時点で、ブランド力に乏しいスズキでは売れない。全てを整えた上でしっかりカタナの名で売ったことが王手となっている。カタナだからGSX-S1000より少し高くてもまず興味を持たれる要因となった。
わかりやすくスズキの本気度がわかる部分がある。GSX-S1000もそうだが、カタナにはクソデカマフラーが付いてないのだ。GSX-R1000Rにも、隼にも、欧州で売れてるV-STROMにも付いてるというのに、カタナには付いてない。これはどういったことなのか。「交換前提だからクソデカでもいいでしょ」というスズキのある種の割り切りが、純正でも全体のデザインを整えようという方向に変わっているのは確実だろう。