常識すぎて誰も語らないバイク話

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SUZUKI KATANA (新型カタナ)

スズキがついに出した令和の新型カタナはその名に恥じぬ名車と言える完成度。楽しいバイクとは何かを知り尽くしているスズキだからこそ作れた最高のバイクだ。

SUZUKI KATANA(新型カタナ) インプレッション(後半)

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前半では新型カタナが生まれた背景とカタナのインプレをさらっと書いたが、後編では具体的なインプレを書いていこうと思う。

作成:2020年9月28日
カテゴリ:SUZUKI KATANA

インプレ時のコンディション

  • 新車購入で走行500km時点。走行に影響する部分は全てストック状態。
  • タイヤは純正のロードスポーツ2、指定空気圧。サス設定もストック。
  • サーキット走行はしていない。

先に要約しておくと、かなりスポーティーで「楽に・楽しく・速い」を極めてると言えるマシンである。

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ライディングポジション

押し歩きはもちろん軽く楽だが、リッターSSに乗り慣れている人間からすると車重はこちらのほうがあるように感じる。ハンドルが高いため取り回しやすいが、中央やや高めに重さの塊があってそれをハンドルで押し引きする感じ。

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シート高は数字上はそれほどでもないが幅があるため、跨ると足つきは悪い。脚がまっすぐ下りずに左右に広がっているので、踏ん張りが効きにくいのが原因である。GSX-R1000の2011年式のほうが足つきは良い。ハンドルが高いため緊張感はさほどないが、アイドリング回転数くらいの極低速域で無理はしないほうが吉。

ステップはかなり低く、脚の自由度と開放感は相当なものがある。そしてハンドルが高く距離も近すぎず遠すぎずの絶妙な位置にあり、ライディング全般を通してマシンコントロールが非常にやりやすい。ここまでポジションがしっくり来たバイクは、ZX-12RとCB1300SBとこのカタナだけである。

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思うにこのポジションは2000年代のビッグネイキッドに近いと思う。そこにストリートファイターとしての運動性能を考え、若干ハンドルを近づけ開き気味にしたもの。ガニ股で乗れるステップはまさにネイキッドらしさがある。

このポジションを作れたスズキ開発者とテストライダー(開発ライダー?)の能力は相当だと思う。街乗りの楽しさからスポーツ走行まで、このポジションが寄与する部分はあまりに大きい。

上体を垂直近くまで起こして乗る、腰に優しい殿様乗りをするにはさすがにハンドルが遠い。軽く前傾して腕にゆとりがある状態だとリラックスでき、巡航からスポーツ走行まで快適に走れる。

街乗りでのエンジン特性

2005年式のGSX-R1000のエンジンを積んでいるが、低中回転域を重視したこととスロットルパイプが楕円であることのおかげで、街乗りを心から楽しめる仕様となっている。

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3500回転までは順当にトルクが出ていくが、3500回転からはかなり太いトルクが出て足回りがしっかりしていることもあり猛烈な勢いで前に押し出されていく。この演出は見事という他ない。VTECに近いようなイメージだと思う。

感性で判断するのが人間なので、楽しいか楽しくないかは「さじ加減」が大事である。カタナのトルクの出方は本当に面白い。リアが空転するほどのトルクでは怖くて楽しめないし、加速にもたつきがあったりトルクの谷があっては楽しさを損なう。

それに加えアクセルをワイドオープンすると構造的により大きな開度となるので、上記のトルク特性との相乗で本当にやんちゃな加速が楽しいのである。今まで乗った中で一番楽しい加速をするマシン。

落ち着いて巡航する場合は2つの回転域の使い方がある。2000〜2500回転はゴリゴリ感が強く出る回転域で、一般車の後ろを走る時に快適な走りを提供してくれる。トルクも十分にあり1500回転ほどまで落ちてもノッキングなしで加速できるから快適。

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3000〜3500回転はトルクの伸びを感じながら気持ちよく巡航できる回転域で、独走する時にぴったり。そこからさらに開ければトルクバンドに入り間髪入れず一気にスポーティーな動きとなる。ワインディングを走る時に快適巡航しながらすぐに臨戦態勢に入れるのは本当に強い。

街中でゆったりな一般車の後ろを走る時には4速まで、幹線道路で速度が上がるにつれて5速と6速と上げていく。どこでも6速にしようとするのは楽しさをスポイルする。気分が上がっているなら迷わず低めのギアを使ったほうが楽しめる。

高速道路の合流など、速度を出せるところでは3速でアクセルをワイドオープンしてみてほしい。最高に楽しいはず。

それとお約束の社交辞令では決してないのだが、純正マフラーでも低音が効いたかなり良い音をしており、低中速域のトルクも提供していることから社外マフラーに変える必要性が低い。早朝や閑静な住宅街では「響いてうるさいな」というほどの音量で、一発で大型車が始動したことが伝わってしまう音圧がある。純正なのでエンジン側とマフラー側、双方からの音のバランスが良いのもポイント。

高回転域の音はやや抑えられているので、例えば空吹かしをすると社外マフラーが「ブオォォォン!」というところを「ギュィィィィン!」と音圧が抑えられて乾いた甲高い音になる感じ。さすがに迫力に欠けるので、ここら辺の音の圧が欲しければ社外マフラーが必要になるだろう。

街乗りでの前後サスペンション(ストックの設定)

あくまでストックのサスセッティングと指定の空気圧でなので、かなり硬く車体を高く感じる。慣らしが終われば多少柔らかくなる可能性もある。

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前後サス共に突っ張り気味で、かなりの大柄感を感じる。1460mmとホイールベースが長くシートが高めなのもあるが、視点の高さもあって大きくぶっといバイクに乗っているような印象が強く、ビッグネイキッドを乗っている時のような満足感がある。

サスの安定感は相当なもので、どんな加速をしても前輪はぴたりと路面に張り付いて恐怖感を一切与えずに楽しませてくれる。後輪も間髪を入れずに路面を蹴り飛ばすダイレクトさが気持ちいい。

ただしストックはあくまで「欧米人が2名乗車で高速をかっ飛ばしても問題が出ない硬さ」という設定なので、日本人が一般道を走るにはあまりに硬すぎる。路面のギャップで車体は大きく跳ね飛ばされ、コーナー中ならばこの大柄な車体はアウトへ吹っ飛んでしまう。

サスは柔らかくしたほうが間違いなく快適。

前後サスペンションの設定

まだ調整中なものの、街中と山道を気持ちよく走れると思った設定。ストック設定は目視なので少しズレがあるかも。

場所ストック設定自分の設定
F Preload最弱から4.5回転締め最弱から1回転締め
F Comp最弱から2.75回転締め最弱
F Tension最弱から9クリック締め最弱
R Preload工具なし工具なし
R Tension最弱から2回転締め最弱

サスの動きの硬さがだいぶ取れ、しなやかさを感じられるようになる。ギャップでの突き上げもかなり減って痛い思いをしなくなる。街中でストックと比べて欠点は一切ない。

またスポーツ走行もかなりしやすくなる。

ワインディングでのスポーツ走行(サス設定後)

体重55kgのためストックではサスが全然沈まず、アンダーステアが酷かったので柔らかくした後のインプレ。

しなやかと重厚さが上手く合わさった絶妙なハンドリング。ストリートファイターにビッグネイキッドのコシと大きさのエッセンスを少し加えた感じだと思う。

やや高めの重心、重さの塊を下半身で転がして遊ぶイメージ。ハンドルが高いためコントロール性が高く、ホイールベースが長いため寝ていく過程もバンク中も抜群の安定感がある。

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第一にストリートファイターなので、それなりの速度と荷重はやはり要求される。SSほどではもちろんないが、アクセルを開けてリアをしっかり沈ませて立ち上がり、次のコーナーへ大柄な車体を切り返し深くバンクさせてターンインする。気持ちいいコーナリングにはこの流れが必須。

そしてしっかり寝かせることである。ロングホイールベースのマシンを上手くバンクさせるには少しコツが要る。腰をしっかりコーナー内側へ向けて傾けて、上半身の体重をシート内側の1点だけに掛けるイメージでグイッと押し込み、寝かし込む。幅広のシートはここで活き、抜群のシートホールド性(こんな言葉があるかは知らないが)を体感できる。

それでも寝かし込みが足りないなら(コーナーの形状、体重、サス設定などが影響する)、少し寝かせながらリーンウィズでコーナーへ向かっていき、バンクしたいところでわずかに腰をシートから持ち上げながら内側へ移動させる。リーンウィズの時にタメが発生して、それを一気に内側へ動かすことでバイクはより寝る。

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深いバンクから深いバンクへ切り返し、しなやかな足で加減速することでワインディングを快適に走り抜けられる。おまけに4000回転という低めの回転域からトルクモリモリなので、巡航とスポーツ走行の切り替えが容易で扱いやすい。外乱にも強く視点も高いので緊張感も少ない。

ライディングフォーム的にはよくあるストリートファイターのポジションとなり、SSのようにハングオフしたり頭を内側へ大きく入れる必要はあまりないと感じる。ただし頭は重いのでしっかり下げたほうが曲がる感じはある。

ブレンボのモノブロックキャリパーをフロントに装着しており、コントロール性はかなり良いと感じた。減速時のフロントの剛性は頼もしいものがあり、長いホイールベースでしなやかに受け止めているのか、不安は全く感じない。バンク中にも前後ブレーキは躊躇なく掛けられる。

加速が楽しいし街中で楽なマシンだが、ワインディングを走れば最大に楽しめる領域がどこに設定されているか、よくわかると思う。

総評:最高のツーリング・ワインディングマシン

一番楽しいマシンを買いたいと試乗を繰り返した結果、たどり着いたのが新型カタナ。迷っている人はぜひ一度試乗してみてほしい。一般人なら乗車時間の8割以上を街乗り・ツーリングとワインディングが占めるはずである。ただ乗っているだけで楽しいマシンというのは本当に幸せだ。

この完成度で、この価格というのが本当に驚きである。CB1000R、MT-10と比べて明らかに安い(GSX-S1000に関してはもはや異次元である)。自分が買った時には新車で120万円台の個体がいくつもあった。

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バイクというのはどうしても尖ったモデルのほうが魅力的に見えるが、どの領域でも心底楽しめるモデルはほぼない。どこかに我慢が必要なのだ。新型カタナも高速道路だけはそれほど得意ではないが、それ以外は本当に楽しめるマシン。

低中回転域のトルクが厚いため、シグナルダッシュは相当な速さでSSを上回る。SSならクイックシフターを使った上でアクセル全開で回さないと置いていかれるだろう。峠では鼻歌混じりで駆け抜けられ、血眼で攻めるSSを尻目に楽しめる。峠での絶対的戦闘力でも、SSにそれほど差を付けられているとは感じない。本気のSSにはコーナリング速度で負けるが、立ち上がり加速が速いからだ。初見の道なら間違いなくカタナのほうが速い。

自信を持って万人にオススメできる名車と言える。

スタイリングと昔のカタナ風カスタムについて

新型カタナは旧型カタナのテイストはもちろんあるが、引き継いでいるのはスタイルよりもスポーツ性の要素のほうが大きい。

だから「低く長いスタイルこそカタナだ」という意見は間違いではないが、それだけがカタナではないと思う。現代の造りでより楽しく高性能なマシンとなるとこういう形になる。

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性能的な完成度としては文句の付けようがないレベル。このマシンにセパハンを付けても、サーキット以外では恩恵はほとんどないのではないかと思う。

とは言え、カスタムすれば旧型カタナのようなスタイリッシュな形になるのも事実である。より低いハンドル、ウィンドスクリーン(メーターバイザー?)、ロングテールカウルの3点セットで雰囲気が旧型カタナに近くなる。

もしそちらのテイストが好きなら大いにアリだと思う。ただしストックはあの形で完成されているので、変えるなら3点セットが望ましく、それなりの出費になる。

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新型カタナも旧型カタナも、デザインに関しては賛否両論あるマシン。しかも新型と旧型を好むライダーとの間に微妙にズレがあるのも事実なので、自分が好きなカタナに乗っていくことが大事だと思う。

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