客観的に見たZX-10R C型インプレ (前編)
これまでいくつか私の主観から初期型であるZX-10R C型のインプレ記事を書いていますが、客観性に乏しくC型を貶める内容になっていないとも言えません。そこで実測データを含めたスペックや他のSSとの比較からなど、少し引いた目線で公平に評価してみたいと思います。
間違いなくスペック的に強いZX-10R C型
そもそもそれまで大型のスポーツ車としてZX-9Rを有していたKawasakiがどうしてZX-10Rを開発し販売したのか、その経緯を簡単にお伝えします。
他社が軽量ハイパワーなマシンを投入しているのに対し、KawasakiのZX-9Rはあくまで日常用途も考慮された行き過ぎていないスポーツ車でした。2000年にはZX-12Rを投入するものの、これはメガスポーツであって超高速域での運動性能は最高峰であるもののサーキットで戦うようなバイクではありませんでした。Kawasakiはピュアな大型スポーツ車を持たない状況で、他社に対抗し得るノウハウもなかったのです。
バイクレースの種類を調べてみた!の記事にもあるように、それまでの2スト500ccで戦われていたMotoGPが2002年から4スト990ccとなり、これはチャンスと2002年から参戦を開始したKawasakiのマシンがZX-RRです。
Kawasakiと言えばやはり強いイメージがなくてはならない。ZX-RRからのフィードバックを受け、ZX-10Rはサーキット性能No.1を指標に開発されました。
しかしそこにはKawasakiらしさがあります。あくまでライダーを第一に乗りやすさを重視して結果的に速いCBR1000RR、(03モデルまでは)明確に公道での楽しさと乗りやすさが主眼のYZF-R1、レースでの実績も豊富でライダーに優しく総合的な戦闘力が一番高いGSX-R1000。そんな他社を尻目に、「とにかく戦闘力を第一に」と考えたのがKawasakiでした。
そうして2004年に市場に投入された最初のZX-10RであるC型は、超絶尖ったマシンでした。潔いくらい愚直なKawasakiが「サーキット性能No.1」を目指し作ったのです。
最強のエンジン
サーキットでの戦闘力を考えれば、エンジンパワーがあって軽く、剛性が高いマシンが有利となります。
低中回転域のパワーはそれほどではないものの下から上まで綺麗にトルクが出ていき、高回転域では爆発的なパワーを生み出し、他社同世代と比べてピークパワーが数ps高い。高回転域のパワーが凄くてもそこに至るまでのトルクの出方に谷間があると扱いづらいのですが(04のYZF-R1のように)、スムーズなトルクの出方なので扱いやすい高回転型エンジンなのです。
直線が多ければ多いほど他社製SSに対してアドバンテージがあるのがC型ZX-10R。まさに強いKawasakiのイメージにぴったりです。
最軽量・高剛性
スポーツ走行においては車重は非常に大きな要因です。同時に車体のコンパクトさも。
そこでKawasakiは独自のバックボーンフレームを採用し、600ccに迫る軽量コンパクトな車体を開発しました。少しだけ大きく重い600ccであって、他社のリッターSSと比べると明らかに軽い。
それに加え高速域での運動性を重視した高い剛性を持ち、戦闘力を上げるため前後重量配分はしっかりフロントが数kg重く、さらにホイールベースは600ccよりも短い。これだけコンパクト・過激なパッケージなので相当シビアなスポーツ特性となります。
もうおわかりいただけたと思いますが、サーキット性能No.1は建前ではなく、実際に大きなサーキットにおける戦闘力は一番でした。
もちろん他社のSSも過激さを増していき年を追うごとに猛烈に追ってきますが、1000ccのスーパースポーツを持っていなかったKawasakiがこれを突如2004年に投入するとは、相当の力の入れようだったと言えます。
※サーキットにおける強さは市販車同士での範疇でです。改造範囲が広いMotoGPは考慮していません。
そして訪れる敗北
ここまで書けば、「サーキット性能が重視されるSSというカテゴリーで、理論的にも実際も最強だった10Rが売れまくるはず」と思われると思います。しかし実際は市場には受け入れられませんでした。
C型は大きなサーキットでの限界性能を再重視するあまり、他の部分はほとんど考慮されていないのです。
高速域での剛性を追求したため大きなサーキットでなくては荷重が足りず、曲がらない車体。リッターSSを買う中で何パーセントの人がそういった場所にこのマシンを持ち込むのでしょうか。
高荷重設定なのはフレームだけでなくサスも同様で、ストックではあまりに硬く曲がらないだけでなく怖い思いをする。そして独自のフレーム構成によるもののせいなのか車体からのフィードバックに乏しく、サス設定は難解。前荷重でキャスターを立たせすぎた結果、安定性に乏しくふらつくフロント。明らかな前下がり、後ろ上がりの車両姿勢。
荷重をかけなければ不安定で曲がらない車体の上に、低中回転域ではそれほどパワーがありません。加えてギア比がロングであり、日本の峠ではほとんど1速で走らなければ荷重が足りずに曲がりません。1速でも160km/hくらい出ますから、どれだけの局面でこのマシンの真価を発揮できるでしょうか。
そもそも車体全体が高荷重設定なので、仮に峠を走りやすくサスセッティングしようとしても(大抵は柔らかくする)それは「働いていないフレームによるネガを誤魔化すための設定」であり、本来のC型の運動性とは違ったものとなるでしょう。
誰であっても乗りにくさ、バランスの悪さを感じるはずですし、また同世代の中で唯一ZX-10Rだけがステアリングダンパーを装備していないなど(D型から装備)、疑問を感じる部分も多々あります。
他の多くのSSでも見られる現象ですが、ブレーキのフェードが特にC型は酷く、ZZR1400のキャリパーに換装するのが定番となっている事実も最速を目指したSSとしてはどうなのでしょうか。ブレーキに信用を置けなければ全力でスポーツ走行できません。
乗り手に媚びず我を貫くC型
多くのオーナーがこのバイクに自信を失くすか失望し、手放したり妥協したことでしょう。上手い下手でなく、そもそも車両が日常用途ではおよそ真価を全く発揮できない作りなのです。
確かに実際に峠や首都高などで相当速いC型がいるという話もよく聞きます。C型の高荷重設定を手なづけた猛者なのか、あるいは改造に改造を続け、もはやストックとはかけ離れたマシンとなっているのか。定かではありませんが、その存在がC型を肯定するものではないと私は考えます。それだけ、ストックのC型は一般人を考慮していないのです。
その証拠に、Kawasakiは次のモデルであるD型(2006-2007)はC型とは一転、安定性を重視した特性となりました。これだけの思いをこめて作ったC型なのですから、D型への豹変ぶりに市場での反応が表れています。
「SSなんてサーキットでなければ全力で走れなくて当然」という考えもあるかもしれませんが、そう極端な話ではないのです。CBRはいつだってライダーの味方だし、R1は03モデルまではむしろ峠の気持ちよさを最優先で作られているし、R1000は扱いやすいからこその高い戦闘力。10Rとは隔たりがあります。
強さへのこだわりが、一般人を無視した過剰な特性を生み出してしまった。まさにスペック競争が生んだ悲劇のSS。
そして後編でパワーについての話が続きます。